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Libet

科学的手法で脳活動がいかに意識を生み出すかという問題に対するアプローチには、いろいろな種類がある。Binocular Rivalryなどをつかって、主観的知覚と物理的刺激を分離することで、電気生理とfMRIで知覚に対応する主観的知覚に対応する神経活動を見つけ出すというアプローチがもっとも直接的な手法といえるだろう。

その一方で、脳の中で時間(特にタイミング)がどのようにニューロンによって表象されているかという問題は、まだまだ研究していかなければならない分野である。

ここでは、ベンジャミン・リベットの『マインド・タイム 脳と意識の時間』という本(原題:Mind Time: The Temporal Factor In Consciousness )を薦めたい。

リベットは意識の生じるタイミングについて、脳内の活動が我々が世界を感じるときの時間感覚と対応していないと考えている。感覚刺激の入力によって引き起こされる一連の神経活動がそのままの順番で我々の知覚となっているわけではないという仮説だ。例えば、誰かに手のひらを触れられたときとか、テレビで場面が急に切り替わって別の人が映されたときに、感覚情報を司る脳の部位でtransientな反応が生じる。リベットのバックリファレル(back referrel)仮説では、transientな神経活動の内容自体は意識に直接のぼらないが、それより後で形成される安定した神経活動が意識にのぼり、その意識的知覚はその前のtransientな活動の時点から始まっていると脳内で解釈されているという考えである。その根拠として、リベットは人間のsomatosensory areaを直接刺激すると、主観的には知覚が生じたタイミングが、皮膚を触られた場合と比べて遅くなっているという実験をしている。皮膚からの神経伝達の時間などを考慮すると、直接脳を電気で刺激した方が、はやく知覚が生じても良さそうなのだが、実際にはその正反対の結果となっている。リベットは、脳を直接電気刺激した場合にはtransientな反応がないため、back referralが起こらずに刺激を感じ始めるタイミングが遅れてしまうと考えている。

このような知覚現象は現代ではたくさん知られている。例えばフラッシュラグ効果 を説明するためにDavid EaglemanPostdiction という仮説を提唱した。知覚の内容はその直後の出来事で再編集されるという考え方である。フラッシュラグについてはまた後日じっくり書こうと思う。

もう一つリベットの研究で面白いのは自由意志の問題だ。マインド・タイムは自由意志と上で述べた知覚のタイミングの話、それと最後にちょっとクレイジーな仮説から構成されている。正直なところ、その最後のクレイジーな仮説に説得力があるようには思えないが、科学的に検証可能(正しいか正しくないか実験で決着を付けることが可能という意味)ではある。

リベットの研究した問題というのは、ユニークでまだまだアイデア次第でおもしろい研究に結びつくようだ。リベットの個別の論点については、現代の視点からみると物足りない部分もある。それでも、意識にとって時間というテーマは深淵で常に新鮮な驚きを与えてくれる。


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