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P意識とA意識

哲学者Ned Block は意識には、二つの側面があると主張し、phenomenal consciousness (p-consciusness)とaccess consciousness (a-consciousness)と呼んでいる。(Block, 2005

p-consciousnessというのは、意識の現象学的な側面、つまり赤という情報を処理しているときに生じている主観的感覚のことだ。つまり、意識のクオリア的側面のことだ。一方、a-consciousnessとうのは、意識として表象されている情報機能としての側面。写真を見せたときに、「あの写真には赤い花が映っていました」と答えることなどの、意識の外からも観測できる側面を指している。

哲学的において、この概念的区分は非常に重要だといえる。たとえば、チャルマーズの主張は、科学はa-consciousnessを研究することはできても、p-consciousnessのことはわからないだろうと、言い換えることができる。デネットは、意識はa-consciousnessがすべてでp-consciousnessは幻であって、存在しないのではないかという懐疑的な立場だといえる。

では、脳科学者にとってa-consciousnessとp-consciousnessの区別はどのような意味を持つのだろうか。ひとつには、意識と注意の関係を実験によって探ろうという場合、この区別は重要だ。目を開けていると目の前に「見えている世界」があるが、それはすべてp-consciousnessで、しかし注意を向けて、特定の物体などを一定期間、ワーキングメモリといわれる記憶に蓄えて初めて、a-consciousnessになるという考え方がある(Lamme (2004)など)。

一秒間に10枚ぐらいのペースでたくさんの写真を見たときには、脳はすべての写真を処理しているが、ワーキングメモリに蓄えるペースが追いつかず、すべてについて答えることができない、つまりa-consciousnessがない。(Marvin ChunとMolly Potterの提唱したattentional blinkのtwo-stage model を参照)

確かに、このような意識に上っていたが記憶に残らない情報というのを、科学者の立場からはp-consciousnessと呼んでしまおうという議論に共感するところもあるが、疑問もある。無意識のうちに、さまざまな情報処理が行われている場合はたくさんある。マスキングや、Binocular Rivalryなどそれぞれ見えてない刺激が、脳に何らかの効果を残している例はたくさんある。それらすべてが一度、p-consciousnessとして存在しているという訳ではないだろう。では、被験者がレポートできない(a-consciousnessがない)情報のなかに、p-consciousnessがあるものとないものに分類する基準が必要だ。

直感的には、binocular rivalryで見えないときには、p-consciousnessはないように思える。でも、attentional blinkでみえなかったときは、p-consciousnessがあったかもしれない。どちらもレポートできないという点では同じだろうが、何かが違う。あるいは、違いがないのなら、「a-consciousnessがなかったが、p-consciousnessがあった」という状況と、「意識に上らない無意識の処理があった(言い換えると、a-consciousnessもp-consciousnessもなかったが、脳は反応していた)」という状況の二つに意味の違いを持たせることができない。

たとえば、こんな分類法はどうだろうか。a-conciousnessに上らなかった場合でも、「意味の処理」ができた場合は、p-consciousnessがあり、できなかった場合は、p-consciousnessなし。binocular rivalryで刺激を見えなくしたときには、semantic primingが起きないが、attentional blinkで刺激が見えなかったときには、semantic primingが起きる。この基準はひとつの目安にすぎないが、私のいいたいのは、このような基準がないとp-consciousnessについて議論することが難しいということだ。

最後に、a-consciousnessというのは、結局ワーキングメモリと同義だと思う。刺激に対して反応できるというだけだと、ゾンビでもa-consciousnessがあるというおかしなことになる。ゾンビでないことを示すテストは、情報を数秒にわたって保持してフレキシブルに使う能力、つまりワーキングメモリではないか。p-consciousnessがないという懐疑的立場をとってしまうと、ワーキングメモリを研究することが直接的に意識を研究することになる。




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