Transcranial Direct Current Stimulation (tDCS)
脳を外から刺激する方法として Transcranial Magnetic Stimulation (TMS)という手法があるが、それとは別に、もっと単純なtranscaranial direct current stimulation (tDCS)というのが割と注目を集めている。
単に頭に電極をつけて、数mAの電流を流すだけで、果たして本当に脳に影響があるのかと疑問だが、どうもほんとに効果があるようだ。
tDCSに関する最近のレヴューとしては、以下を参照。
Wassermann & Grafman (2005)
まず、おもしろいと思うのは、電極の極性によって効果が逆向きになることだ(例外もいろいろある)。たいていの場合、アノードは刺激部位の機能を高めて、カソードが刺激部位の機能を妨げるか効果がないというパターンが多い。さらに、機能があがっているという実験がたくさんあるところが面白い。
なんでこんな効果がそもそもあるのかというのも疑問だが、ニューロンの自発発火(あるいは反応性)のベースラインをシフトさせているのではないかと考えられている。Polarizationの単一ニューロンに与える影響についての古い論文が引用されている(Terzuolo and Bullock, 1956)
tDCSを用いた視覚野に与える影響もいくつか研究がある。
Antal et al. (2006) たとえば、MTをターゲットにするとmotion aftereffectが弱くなるなんていう実験もあるAntal et al. (2004a) Antal et al. (2004b)
視覚の話では、おおざっぱな刺激で何かが変わってもそれほど一般の人が興味を持つような話にはならないだろうし、視覚の研究者にとってはおおざっぱすぎてそれほど科学として面白くないかもしれない。むしろ、学習能力が上がるとかそういう話を聞くと、自分でも勉強しているときに脳を刺激してみようかと思ってしまう。なにしろ、この刺激方法はお手軽だ。自宅でTMSをするのは難しそうだけど、tDCSならできる。
潜在学習の促進
Kincses et al. (2004)
ワーキングメモリーの促進
Fregni et al. (2005)
これはDCというよりはACだけど頭の外からの刺激で睡眠中の学習も促進することができる。
Marshall et al (2006)
さらには、個人のリスクをとる傾向(risk taking behavior)をバイアスすることまでできる。
Facteau et al. (2007)
tDCSはTMSに比べると刺激している脳の領域が広くて、正確にどこを刺激しているかよくわからないという問題があるから、脳の機能を詳細に調べようという研究には不向きかもしれないが、TMSに比べるとずっと日常的に利用可能な装置だから、実際に人間を助ける実用的なものになる可能性がある。
鬱病に対する効果なんかも調べられていて、病理についてはよくわからないが、本当に効果があればこれで助かる人も出てくるだろう。
もしかしたら、未来では状況に応じて一時的に脳の機能を高めるようなことが日常になるのではないかと想像をかき立てられる面白いテクノロジーだ。テスト前の学生とか、記憶力アップの刺激を脳に入れて勉強するようになるかもしれない。効果があるなら、自分でもやってみたいし、ちょっと試しにやってみようかと思う。ミーティングでアイデアを出し合うときに、発想力を高めるために発想脳を刺激して話し合ったら、いいアイデアがたくさん出てくるかもしれない。
| 固定リンク
トラックバック
この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/207912/9776016
この記事へのトラックバック一覧です: Transcranial Direct Current Stimulation (tDCS):
» 「見る」とは意識だろうか? [生物史から、自然の摂理を読み解く]
人間の行動のなかでどこまでまでが意識で、どこまでが意識でないか。例えば、「見る」... [続きを読む]
受信: 2008年2月18日 (月) 20時05分
コメントを書く
コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。
コメント
tDCS、面白そうですね!昔リハビリ関係の学会に行ったことがあったのですが、NIHのLeo Cohenが「運動野損傷の患者のリハビリ補助として使ったらうまくいった」という話をかなり宣伝していました。僕の記憶が確かならば、、、
彼らの理論では、両側の運動野間の活動バランスが運動制御に重要で、損傷患者さんでは、そのバランスが崩れてしまう。特に、損傷回復期に活動する同側の運動野の活動が、リハビリ完了後も持続して運動制御を邪魔してしまっているっぽいで、それをtDCSを使って抑制してやると、運動制御がちょっと良くなる、
という話だったと思います。
その時の話では「tDCSのほうが、ニューロン活動をちゃんと抑制することが分かっていることが利点」みたいなことを言っていた気がしますが、TMSでも、運動野だったら興奮、抑制の制御はある程度できそうな気がします。tDCSの利点は、簡便性ですか?不快感がTMSよりすくないとかあるのですか?
P.S.
Sereno、今はLondonにいるのですね!金井さんと同じくらいの時期の移籍ですか?
投稿 nobuhiro hagura | 2008年1月16日 (水) 00時14分
来週末からtDCSの修行で、Gottingenに二週間いくことになった。tDCS発祥の地でちゃんと鍛えてもらえるというのはありがたい。いまやってる研究の話とかきくと、今まで出てる論文よりももっといろいろ試しているみたいで、それもやってみようと思う。
たぶんリハビリとかが目的の方が、tDCSは向いているかもしれないと思う。ただ、メカニズムがTMSよりもよくわかっているかというと、どっちもどっちという印象だからなんともいえない。
tDCSはTMSよりずっと簡単に扱えると思う。ちょっとしたぴりぴり感ぐらいだから、TMSほどショックがある感じじゃない。とくに脳の前の方を刺激したい場合は、TMSだと顔の筋肉とかが近くてやりにくいけど、tDCSならやりやすそうだ。あと、効果の持続時間が割と長いのもtDCSの利点だと思う。いまここにある刺激するtDCSの機械は、電池たった4個で電源を差し込む必要もないから、十分に意味のある効果が実証されれば、患者さんに家で自分で刺激してくださいということにもなりえる。でも、TMSを一家に一台という分けにはいかなそう。
Serenoは自分よりちょっと前にきたぐらいだと思う。就任したときのレクチャーみたいなのが自分がちょうどきたときあたりだったから、ほとんど同じ時期かもしれない。
投稿 金井 | 2008年1月19日 (土) 10時23分