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サッカードと視覚処理のサイクルとトランジェントの関係について

1時間ぐらいのトークをやってくれと頼まれることがたまにある。たいていそういうときは、その時自分がやってることで一番面白いと思っている研究について話すのだが、イギリスに来てからは自分が少し前にやっていたことを話すようになった。

11月に来てから、3回、人前で自分の研究の話をしたのだけど、毎回同じ話をしていた。準備が楽とかそういうこともあるけれど、自分の気になっているアイデアを正直に話したらどういう反応があるのか知りたかったからあえて同じテーマを選んだ。

日本の心理学評論という雑誌に、自由に自分の研究について書かせてもらえる機会をいただいたので、それを機に、今まで気になっていたそのアイデアを日本語で文章にしてみた。関係ある論文すべてを網羅的にレヴューするには至っていないけれど、おおまかなアイデアを伝えるのに十分な情報は盛り込むことができたと思う。これが原稿のpdf (「心理学評論の原稿.pdf」)。

このレヴューに書いたアイデアというのは、今まで自分が研究していたフラッシュなどのトランジェントが知覚に影響を与える現象やマスキングなどは、眼球運動(とくにサッカード)時にV1あたりの初期視覚野での意識に上っている活動をいったんリセットするのが本質的な機能で、そう考えればかなりの視覚研究の対象となっている現象がまとめて理解できるということだ。

<要旨のコピー>
我々の身の回りの視覚環境において、突然の変化には生物の生存にとって重要な情報が含まれていることが多い。視覚的な動物はそのようなトランジェントと呼ばれる突然の変化によってもたらされる情報を選好的に処理するような仕組みを持っている。本稿では、まず始めにトランジェントによって引き起こされる知覚が変化する現象について概観し、 その後にトランジェントがなぜそのような現象を引き起こすのか理解するため眼球運動の文脈から考察する。トランジェントによって引き起こされる知覚の消滅や変化は、トランジェント呈示直前までに確立されていた知覚をリセットし、新たな知覚の形成を促すことによって引き起こされていると解釈ができる。そのようなリセット機能はサッカードと呼ばれる急速な眼球運動の前後での情報の混合を避けるために有用であると考えられる。実際に、サッカードが生じるたびに網膜のレベルでは、古い刺激が消えて新しい刺激が現れるというトランジェント信号が生じている。このことから、トランジェントによって引き起こされる錯視は、サッカード間での視覚的痕跡(persistence)の継続を断つという本来の機能が根底にあるのではないかと提案する。眼球運動の制御系と視覚処理系はお互いを制限条件として共進化してきた結果、サッカード時に生じるオンセットとオフセットのトランジェントを視覚系はリセットのシグナルとして有効に利用するようになったのだと考えられる。ここでの、眼球運動と視覚処理の相互関係の枠組みは様々な視覚神経科学で知られている現象を統一的に機能的側面から理解するのに役立つであろう。

ある意味、ここで言っていることは常識的なことで当たり前だと思う人もいるかもしれない。そのかわり、今まで自分が新しい実験を考えたりするときには、サッカードとトランジェントの関係は表面に出さないまま、密かに自分の考え方として使っていたと思う。本当は、自分の博士論文のときにイントロかサマリーで書いておきたかったことだけど、他にも書くことがあって、サッカードの話は少ししか触れることができなかった。一応なりにも、自分の考えをまとめて書いたことで、今まで潜在的に使っていた思考の枠組みを他人に説明することができる。日本語でたまには自分の研究について書いてみるのも悪くないな。

ところで、この心理学評論で引用しているMichael LandのAnimal Eyesという本はすごく面白い。
アメリカのアマゾンではどうもJack Pettigrewらしきひとがコメントしている。

Animal Eyes (Oxford Animal Biology Series)BookAnimal Eyes (Oxford Animal Biology Series)


著者:Michael F. Land,Dan-Eric Nilsson

販売元:Oxford University Press, USA
Amazon.co.jpで詳細を確認する

自分が京大の学部生だった頃、マウスの眼球運動をせっせとみていたわけだが、なんか常にVORとかOKRは十分なゲインがでてなくて、全然視野のぶれを保障できてないからこんなもんかとおもっていたけれど、どうも身体の動き全体を含んだ視野の変化を考えればきっとマウスも相当安定した凝視をしているのではないかと、今更ながらに思う。

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夢について

ロンドンに来てから毎日刺激がたくさんあって、なかなかブログを書く時間がありません。

最近はドイツのGoettingenという所のPaulus教授を数週間単位で訪ねて、tDCSという脳刺激の手法を教えてもらってUCLに輸入している。tDCSが最初に開発された場所というだけあって、かなり他ではやっていないような実験ができるから、かなり興奮。

UCLでは基本的にはアウェアネス、時間知覚、注意に関係ある実験をTMSとtDCSでやりつつ、EEGとfMRIもパラレルでやるように、一通り全部通してできるようにトレーニングを受けている状態で、技術は確実にアップしてきているけど、なかなかすごく面白い実験というのはでてこない。あとまだ未公開の刺激法の開発しています。それが一番面白いけど、論文がでるまではブログでは書けません。

年末あたりから、周りのひとに説得されて、今後、睡眠の実験をすることになった。睡眠と夢には興味がなかった訳ではないけど、なにしろほとんど何もしらないから、果たして実験できるのだろうか。

とりあえず、周りの人に相談してみたら、同じオフィスの人は元々睡眠の研究でPhDを取っていたことが判明して、基本的なことを少し教えてもらった。ボスに相談したら、とりあえず必要そうな道具を揃えてくれたので、今週にはベッドもくるし、スリープ・ラボっぽくなりそうだ。周りの人は、睡眠の学習にもたらす効果とかを知りたいらしいのだけど、なかなかそこのところが自分の興味と合わない。自分としては、寝てる人の脳(DLPFC)を電流で刺激して「自分は夢の中にいる」と自覚しているルシッド・ドリームを引き起こしたり、目が覚めている人の脳の一部だけを無理矢理睡眠中のEEGとそっくりな電流を流して眠らせたり、あるいは金縛りと幽体離脱を引き起こしたい。

自分の体験から、疲れていて眠ろうとすると、いきなり金縛りにかかって幻覚が見えるパターンがある。コーヒーを飲むようになったときとかは頻繁にそれが起きていた。これを経験したことがある人は、似たような体験をしているが、体験したことがないひとには、本当にそんなことがおこるのか怪しいと思う人もいるだろう。こういう現象は頻度的には稀だけれど、一生のうちにほとんどのひとが数回は経験する現象だ。だから、脳刺激で繰り返し確実に金縛りが起こせれば研究しようがあるなとおもって、試してみようというところ。

自分にとって新しい分野というのは、学ぶことが多くて楽しい。学んでるだけだと、生産者になれないけど。最近、実験の合間にこの本の原著を読んだ。

夢の科学 (ブルーバックス)Book夢の科学 (ブルーバックス)

著者:アラン・ホブソン
販売元:講談社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

今までほとんど夢とか睡眠について読んだことがなかったから、かなり初歩的なことで驚かされた。

1: 夢をみるのはREM睡眠中だけではない。
2: REM睡眠中に夢はずっと見ているが、すぐに忘れてしまうだけだ。寝ている人を起こして何の夢を見ていたか聞けば、95%のひとが答えることができる。
3: REM睡眠中にDLPFCとposterior cingulateの活動が選択的に下がる。
4: Parietalの患者は夢を見ない。
5: REM睡眠はホ乳類だけにある。だから体温調整と関係がありそうだ。REM睡眠中は体温調整ができない。
6: 寝ないと死ぬ。眠いという欲求はすごく強い。欲求が強いということは、進化の過程で生物としてすごく重要なものに違いない。

かなり初歩的な本なのに、こんなに知らなかったことがでてきた。学問としてどこまで正確な情報かは論文を読まないことには判断がつかないけれど、これだけでもかなり面白そうな分野だと確信できた。寝ている人を起こして95%の人が夢の内容を答えることができるということで、脳刺激が夢に影響を与えることができるのかどうか、実験できる希望が見えた。

大量に睡眠関係の本を注文したから、しばらくはそれを読みながら関連論文を読んでいって、せめて知識が一人前になったら睡眠のラボ見学にいってこようと思う。

睡眠中のTMS脳刺激はTononiのラボのMassiminiという人がやっている。(Massimini et al., 2005, Science, Massimini, 2007, PNAS)。

メソッド的に、TMSの音をアクティブにキャンセルしたり、細かい工夫がたくさんある。それでも、睡眠中の脳を刺激するのは、まだまだ未知の世界だから面白いことがたくさん出てきそうだ。

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