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よく寝ないと、いい思い出は残らない

数週間前にUCLで睡眠についてのワークショップがあった。

いろいろな角度から特に睡眠中に起きる記憶の定着と学習について、たくさんの面白い研究について話を聞くことができた。睡眠は自分にとってまだ知らないことが多い分野で、まとめて睡眠研究の発表を聞くことで、その分野の雰囲気のようなものが感じられた。自分が脳刺激をやり始めたときもそうだったが、研究テーマが少し違うと微妙に業界ごとの雰囲気の違いのようなものを感じる。例えば、視覚だと意識の研究として視覚を研究している人も多いけれど、中には「意識よりも、視覚というシステムの仕組みを知りたい」と考えて研究している人もいる。個人的には、「結局は同じことなんじゃないか。意識がわからないと視覚も結局わからないだろう。」と思うのだけど、わりと「意識」という言葉に対して反応が鈍い人もいる。それと同じで、睡眠の研究者で睡眠の持つ記憶の形成の効果などを研究している人には、「夢」を研究することを面白いと思う人と、なんだか反応が良くない人がいる。

一番話がおもしろかったのは、Matthew WalkerというStickgoldの弟子でBerkeleyで独立したわりとまだ若い睡眠研究者だった。落語家か?と思わせるほど話がうまくて、始めてラマチャンドランを見たときの面白さに通じる感動があった。Matthew Walkerの研究の結論で特にインパクトがあったのが 「よく寝ないと、いい思い出は残らない」という話だった。

その実験では、36時間寝ずに起きていたあとに、たまたま見た単語がどれくらい記憶に定着するかというのを、2日後の完全に睡眠不足から回復した後でテストした。予想どおり当然36時間起きていた後では記憶力が落ちているのだが、Matthew Walkerの実験が面白いのは、ネガティブな感情に関わる単語に対する記憶力は睡眠不足によってそれほど下がらないということだ。しっかり睡眠をとったグループでは、ポジティブな感情に関する記憶が一番良く残り、次にネガティブな感情に対する記憶がよく残るというものだが、睡眠不足では全体的に記憶力が悪いのだが、ネガティブな感情に関わる記憶はしっかり残ってしまう。

ということは、よく寝ないと、嫌な思い出ばかりが残って楽しかったこととかニュートラルな学習によって得た知識なんかは、ほとんど残らないということだ。幸せな記憶を残すには毎日よく寝てから活動を始めた方がよさそうだ。

これは自分の経験とも当てはまっていて、すごく納得がいった。仕事が忙しいときには、毎日睡眠不足が続くときがある。当然、やる気が満ちあふれているときに敢えて仕事をたくさんいれて、がんばるわけだが、一週間ぐらいすると精神的に疲れたなと思うときがくる。もしかすると、躁鬱病の周期も、睡眠と感情記憶の関係からある程度説明がつくのではないかと思わせる話だ。

この話を聞いてからはよく寝るようになった。

この研究はペーパーとして出ているのか不明だが、Matthew Walkerのレヴューの論文で未公開データとしてでてくる。

Walker MP & Stickgold R. Sleep, Memory and Plasticity. Annu Rev Psychol 2006; 57: 139-166.

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