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個人の能力や才能は環境に左右される

オランダに二日だけ共同研究で行っていた。飛行機で移動するときは本を読むのに絶好の機会だから、前から気になっていた本をついに読むことができた。

それがこの本。

Outliers: The Story of Success Book Outliers: The Story of Success

著者:Malcolm Gladwell
販売元:Penguin
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日本語版もでているようで、これ。


天才!  成功する人々の法則 Book 天才!  成功する人々の法則

著者:マルコム・グラッドウェル
販売元:講談社
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なんだか、一見ビジネスマンとかが読む啓蒙本のような雰囲気があるが、社会学や心理学の研究に基づいて、人生で成功するという現象の原因について調べている。脳科学とも意識とも直接的には結びつかないが、これを一冊読むだけで研究者にとって気になる「天才」という現象や「文化の違い」といったテーマについて理解できるようになる。

著者のグラッドウェルは第1感  「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい (翻訳) を書いた人で、その本もそうだったが、脳科学に翻訳可能な社会心理学的現象のおもしろさを教えてくれる。天才!  成功する人々の法則 を読むと「文化」なんかも科学的に研究できるだろうと感じることができる。

全部通して読んで初めて納得する所も多いのだけど、いくつか心に残ったことを書き留めておこう。

【1万時間の練習】
個人が音楽やスポーツなどで活躍するのは、その人に才能があるからだと思われがちだが、たとえ才能という要素があったとしても、むしろどれだけ自己の修練に時間と労力を費やしたかが重要だということが書かれていた。プロのバイオリニストを格付けすると、結局その人がどこまで上に上れるかは、どれだけ練習したかによるという調査結果がある。そして、1万時間の練習を積んだ人が、トップになる。その次ぐらいの人たちは8千時間ぐらいの練習量。そして、大きく成功した人には、その1万時間の練習をする機会が人生のある時点であたえられていて、それを活かした人だ。ビートルズもドイツのハンブルグでひたすら演奏していて、1万時間ぐらいのライブ量になっていただろうし、ビル・ゲイツもプログラミングにかけた時間がそのくらいはあっただろうという例が挙げられていた。

これは学者として成功したい人に当てはまるだろうか。そのくらい没頭してやることは必要だろう。でも、学問の場合は反復によって必ずしも、質が高まる訳でもないから、闇雲に1万時間かけても十分ではないだろう(それは他の例でも同じか?)。1万時間というのは、一日4時間で週に6日一生懸命なにかに取り組むとだいたい一ヶ月に100時間だから、一年に1200時間で、8年ぐらいかかることになる。それでも、なにか自分の好きなことをやりがいのある仕事にしたいひとは、それくらいはやるだろう。

【頭だけよくても意味がない】
アメリカにIQがむちゃくちゃ(アインシュタインよりも)高い人がいたのだけど、その人は成功しなかった。その人には、権威のあるひとなどと交渉したりするといった「実世界での問題を手際よく解決するためのインテリジェンス」がなかった。こういったソーシャルインテリジェンスというものはIQテストのようなもので測られるインテリジェンスとは別物で、これも重要な能力。

ひとつのプロジェクトにいろいろな専門知識と技術が必要となっている現代の科学では交渉したり、プロジェクトをまとめて、他の研究者とうまくやっていく能力というのはすごく重要だ。

最近読んだHarvard Business Reviewの記事にあったInnovation Value Chainという考えがここのところ頭に残っていて、研究に当てはめて考えることが多い。このIQの話は、Innovation Value Chainとも対応する話だと思う。Innovation Value Chainというのは、新しいアイデアを世の中に出すには、3つのステップがあるという考えで、最初に新しいアイデアを生み出すステージ、次にアイデアを評価するステージ、そして最後にそれを世の中に広めるステージに分かれる。そして、その話で一番重要なのは、ある会社におけるイノベーションの力はこの3つのステージの中での一番弱点となっているところで限定されるということ。これを研究にあてはめると、いいアイデアがあっても、それを実行できなければ意味がないし、さらに人に伝わるように発表できなければせっかくのいいアイデアと研究内容も、狙い通りのインパクトを持つことができない。

それから、IQについて面白いことが書いてあった。ある意味あたりまえと思われるかもしれないが、IQは120以上あったらそれ以上の高さはあまり学問をやるのに関係はない。IQはバスケ選手にとっての身長のようなもので、おそらく160cmでは低いかもしれないけど、200cmがかならずしも190cmよりもレベルの高い選手とは限らない。120あれば十分。友達でIQが170あることを誇りにしている人がいるけど、その人に言ってやりたい。

IQとは別のdivergence testというのがあるらしい。その問題は面白い。この本にでていた例はこんな感じだった。

「レンガの使い道を思いつくだけ挙げてください」

これで、いろいろ面白い使い道が思いつく人の方がIQが170あることよりも重要だろうという話だった。こういう能力が脳の何と対応しているのかは是非知りたい。最近、個人の能力とか性格の違いと脳の関係ばかりをみていて、こういうことが一番気になっている。

【文化の違い】
飛行機の事故の頻度が航空会社の母体となっている国の文化と関係があるという話。オランダのGeert Hofstede という人が作ったスケールで、Power Distance Index(PDI)という指標がある。これは、それぞれの国の文化において、どれほど権威というものに価値があり敬意をもっているかを測る社会心理的な指標となっている。

このPDIがそれぞれの国の飛行機の事故の頻度と高い相関を持っている。この本では、大韓航空が一時期ものすごく事故が多かったのはなぜかということをPDIで説明している。日本もおそらく文化的には似ているだろうが、アジアの文化では、敬語などの体系や昔からある繊細なコミュニケーション文化があるために、機長のような立場の上の人に意見することが難しい。あるいは、管制塔から待機せよと言われれば、言いなりになってしまいがちである。これは、アメリカに住んだことがあるひとなら感じたことがあると思う。日本的な感覚でやさしく接していると、なんだかちゃんと相手にしてもらえないこともある。だから、外国では言いたいことは言わなければいけないということもよく言われる。大韓航空の場合は、補佐的な役割のひとが問題を見つけても、はっきり機長に指令をだせずに、曖昧な示唆をすることしかできていないということが事故の原因になっていた。そして、コクピット内でのやりとりを全部英語に変更したことで問題は解決した。すべてを英語にすればいいというものではないが、飛行機の着陸のような状況では英語の方が敬語的なものを避けて情報の伝達に集中することができるから効率がいいのだろう。

ここにPDIの国ごとの順位がでているけど、イスラエルなどは特にPDIが低い。これは自分の感覚ともすごくあっている。イスラエル人の共同研究者が何人もいるけど、いろいろな要望をいってくる。そのかわり、かなり言い返しても、別にけんかにもならないし別に普通のことのようだ。その辺は、仕事の上ではやりやすい。

PDIの高い低いが国の文化の良い悪いと直接関係しているとは言えないし、あまり直接的すぎても人間味がないなあと思うところもある。ただ、科学者はこの英語ではっきり意見と情報を伝える能力は必要だろう。これは避けて通れない道だと思う。(ただ、意外にも日本のPDIはわりと低い。)

逆に、日本的な文化を背景にもつことの強みもある。この本にでてくる例では、稲作文化圏では、「努力すれば報われる」という価値観が根付いている。バブル以降に大人になった世代は、そういう将来像を持つことができないなどともいわれているが、たしかにアジア人は一生懸命働く。一方、中世のヨーロッパの農業ではより封建制度が強く、努力することが自分の喜びややりがいにつながっていなかった。むしろ、がんばって働くと土地がやせて、作物がとれなくなってしまうぐらいだった。実はアメリカでもゆとり教育というものがあったのだが、それはヨーロッパ式の農業の倫理観が反映されているとグラッドウェルは論じている。

日本人(それから中国の南や韓国の)こういう精神性は、最初に書いた1万時間の修練にもつながる。

こういう話は、偏見や差別に繋がりかねないから、たいてい論者は慎重になる。ただ、この本を読んで、自分の多国籍研究者たちとの交流から感じていた印象が一気に理解できた。それから、いかに歴史の知識が異文化理解に重要かもわかる。

文化に関しては、文化という環境が個人の資質などに影響をあたえるという文脈で論じられていたが、これに遺伝的な要素があるのかどうか、あるいは親や共同体を通して受け継がれているのか、どっちもあるんじゃないかと思う。文化差と脳と遺伝子の関係は、これから研究が進んでわかってくるだろう。

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コメント

将棋の米長会長も、

「試験であれ、芸の道であれ、青春時代に合計して5~6000時間集中的に努力を維持した者が一応認められる」

と、随分昔に言っています。

投稿: ななし | 2009年11月11日 (水) 11時40分

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