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個人差の脳科学に関するシンポジウム

今年の9月にNeuro2010というものすごく大きそうな神経科学の学会(リンク)が神戸で開催される。そこでの公募にシンポジウムの提案を応募したのだが、それが採択されたという通知がきて今すごくうれしい。

うれしいのは、自分がいま一番おもしろいと思っていることをたくさんの人の紹介できるからだ。それから、招待したシンポジストが自分と同世代ですごく影響力のある研究をしている自慢の研究者達だからだ。

テーマは「個人差の認知神経科学」で、おなじUCLにいるMaro G Machizawaとオーガナイズしている。なかなか日本では「Maroって何者なのか?日本人なのか?本名なのか?」といろいろ気になる人もいるだろう。一時期Maroは理研で働いていたから、Maroの存在をしっている人も意外といるのかもしれないけど、日本の学会で見る機会はあまりないだろう。マスターの学生のときにワーキングメモリの個人差についてVogelと共にNatureに二本論文を出したという強者。(Vogel & Machizawa 2004 in Nature Vogel, McCollough, Machizawa, 2005 in Nature )。Maroは今もかなりハイクオリティな研究をしている。

それから二人目のシンポジストはスウェーデンのカロリンスカ研究所のFiona McNab。この人はワーキングメモリのフィルタリング能力の個人差のfMRI(McNab & Klingberg, 2008 in Nat Neurosci)やワーキングメモリのトレーニングを5週間続けるとドーパミンD1受容体の量が前頭葉と頭頂葉で増えることを示したPETの研究(McNab et al. 2009 in Science)などが有名。実は脳研究で、トレーニングによって脳が構造的な変化することを実証した研究の数は少ない。そして、トレーニングは個人差を理解する上で必ず重要になってくるテーマだ。というのは、脳の活動や構造を見て、個人の能力を予測しようとしたとき、遺伝的な生まれながらの要素と、訓練によって変化する要素の両方が関係してくるからだ。

そして三人目はバークレーのSonia Bishopだ。不安になりやすい性格(Trait Anxiety, 専門用語では「特性不安」という)の人は、前頭前野のDLPFC(dorsolateral prefrontal cortex)の活動が低く、注意のコントロールがあまりできていないということを発見している(Bishop, 2009, in Nat Neurosci). これまで質問紙で自己申告的に答えてもらう心理学の実験のようなものはたくさんあるが、こういう古典的な心理学の手法は、客観性などの面で、科学として弱いと考えられていた。その反面、この人の論文のように、脳活動の違いなどの計測可能な脳内の物理的現象と対応がつくにつれて、質問紙の心理学がより洗練されて意義を取り戻すだろう。Sonia BishopはSTAIと呼ばれる特性不安の質問紙を使った。(日本語版はここ)。こういう研究が面白いのは、質問に正直に答えてもらうだけど、その人の脳の特徴がある程度予測できるということだ。それからSoniaは遺伝子の違いについても研究している。

いま自分自身の研究でも「孤独感」の強い人と弱い人で脳がどう違うのかなどを調べている。実は孤独は遺伝することが知られているから、脳の構造に違いがあっても不思議ではない。「孤独感」に限らず、いまこの手の個人の特徴と脳の構造の関係についてUCLで幅広く調べている(empathyとかsynaesthesiaとか、とにかくいろいろ)。今年のVSSでの出し物も、自分の発表(バインディングプロブレムについての研究)以外の3件は、何らかの能力の個人差に関するVBM(voxel-based morphometryという脳の構造と個人能力を対応づける解析方法)を用いた研究だ。VSSでは「時間知覚」と「ワーキングメモリ」と「注意」の個人差についての3つの研究プロジェクトで共著者として発表がある。神戸のNeuro2010シンポジウムでは、自分の発表のときは、かなり変わったものも含めて、個人差に基づいた脳研究の意義について話そうと思う。

個人差研究の意義はざっと挙げると3つある。
1. 個人差研究は、個別の違いを理解するためのものではなくて、脳の一般的な機能の理解を促す。
2. 個人差研究は、脳科学者でないひとの興味に答えることができる。
3. 個人差研究は脳科学産業になりうる。

このことについてシンポジウムのイントロとして話そうと思う。Neuro2010に来る方は是非楽しみにしていてください。

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