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『個性のわかる脳科学』 いよいよ発売

フロリダのVSSという学会から帰ってきて、いろいろ感じていることはあるけど、かなり心身ともに疲れきって未だに回復中だ。

そんな中で元気がでるのは、ついに3月頃必死に書いていた本が発売されることになったことだ。

発売日は6月8日(おそらくアマゾンなどで予約可能)。脳科学の新しい発見が、実世界にどのような影響を及ぼしうるかなどを、自分の現在進行中の研究のテーマと絡めて書いた。普段このブログに書いているようなこととも重なる部分が多いが、ブログのときはわりと専門知識を前提に書いているから、脳科学者でないひとにはわかりにくいことも多いと思う。この本はより一般向けに書いたから、きっとわかりやすいだろう。


Book 個性のわかる脳科学 (岩波科学ライブラリー 171)

著者:金井 良太
販売元:岩波書店
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この本では、脳の構造で個人のことがどこまでわかるか、脳を刺激して人間の能力や性格に影響を及ぼすことができるか、そのような技術が実世界で応用することができるのかなどについて書いた。さらに、意識の話と社会性の話の両方について、そしていかにも接点がなさそうなこの二つのテーマが、メタ認知という観点から無関係ではないということを書こうとした。

自分にとって、意識を研究することは一番重要なことのように思える。それでも、なぜか社会性の脳科学が意図せぬままに、研究に影響を及ぼすだけでなく、実際にその面白さにたえられないぐらい心をつかんでいる。そして、これは自分だけではなく、他の若い研究者も体験していることのようだ。この本を書くことで、いったいこれはどういうことなのか分析することができた。

ちなみに、各章の題名は次の通り。

第1章: 脳科学ができること
第2章: 脳でわかる人間の個性
第3章: 脳と予測
第4章: 脳を外から刺激する
第5章: 意識とメタ認知
第6章: 睡眠の効用
第7章: 孤独の脳科学
第8章: 社会性の脳科学

まだまだ一般的には知られていない、最新の研究について独自の視点で幅広く書いたので、よくある一般向けの脳の本とはひと味違った内容になっていると思う。興味のあるひとには是非読んでいただきたい。

追記:

このブログへグーグルで検索してたどり着いている人の多くは、tDCSについての情報を求めている方が多いようです。本書の第四章はtDCSの実世界への応用について書いているので、参考になると思います。また機会があれば、このブログでもtDCSの最近の発展について書くつもりなので、より正確な情報を提供できると思います。しばらくお待ちください。

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孤独の科学

今回は、社会と脳科学が交錯する「孤独の脳科学」についてお薦めの本を紹介しようと思う。ジョン・カシオポの「孤独の科学」という本で、最近の孤独感研究を非常にうまくまとめている。

孤独の科学---人はなぜ寂しくなるのか 孤独の科学---人はなぜ寂しくなるのか

著者:ウィリアム・パトリック,ジョン・T・カシオポ
販売元:河出書房新社
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Loneliness: Human Nature and the Need for Social Connection Loneliness: Human Nature and the Need for Social Connection

著者:John T. Cacioppo,William Patrick
販売元:W W Norton & Co Inc
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英語版の方のみを読んだので、日本語訳がどれほど読みやすいものかはわからないが、内容的には専門知識なしで楽しめる内容だ。おそらく脳科学や人類学の基礎知識がある人には後半はかなり一般的な話が続くので途中から少し飽きてしまうかもしれないが、最初の三章あたりまでは、かなり驚きの孤独研究の話が載っている。

「孤独」というのはあくまで個人的な問題で、科学が扱う程のテーマでないように思われるかもしれないが、社会的な生物である人間にとって重要な感情のであるのは間違えない。孤独という感情に動かされて、人間は他人との接点を持とうとする。

孤独の研究は幸福の研究とも良く似ている。カシオポの孤独の本を読んでいたら、以前に読んだダニエル・ギルバートの幸福論と非常に似ていた。

幸せはいつもちょっと先にある―期待と妄想の心理学 Book 幸せはいつもちょっと先にある―期待と妄想の心理学

著者:ダニエル ギルバート
販売元:早川書房
Amazon.co.jpで詳細を確認する


何が似ているかというと、「孤独」も「幸福」もどちらも主観的感覚であって、「お金」や「友達の数」のような客観的に定量可能な数値でかならずしも測ることができないということだ。

この主観性は非常に意識の研究と似ている。意識の研究でもかつて問題であったことは、被験者の主観的な報告を、科学はまともに相手にするべきではないのではないかという、行動主義的な疑念があった。しかし、お金や友達の数で孤独や幸福を定量化できないのであれば、本人がどう感じているか聞いてみなければ、主観的な感覚というものを捉えることは難しい。当然、脳科学は、そのような主観的な報告と対応する物質的基盤との関係性を保つことで、単に内省的な報告を記述するだけの、心理学から一歩抜け出し、主観性の問題を、客観的に観測できる現象として捉えようとする。

社会性の脳科学と意識の研究との間に接点があるのは、主観性をいかに科学として扱うかということだろう。主観的な感覚の研究という観点から、孤独の研究は面白いが、睡眠などの研究とも同じで、今まで自分の知らなかった基礎的事実もまた興味深い。たとえば、孤独は50%遺伝子で決定しているとか、孤独はソーシャルネットワークを介して他者に伝染するなど、おもしろい事実がたくさんある。また、孤独を感じていると、テストなどができなくなったりするし、おそらく肥満になる確率もあがる。

カシオポのTICSのレヴューも、最近の孤独研究を概観するのにお薦め。

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